施工事例集
特に、急傾斜、土質、緑化手法が特徴的であった現場の中から施工事例を抽出し示します。
急傾斜事例
経緯
対象斜面は、道路開設時に造成される切土法面である。棚倉断層の影響により破砕が著しい風化岩盤であるため、亀裂は多数確認される。
造成された法面の勾配が1:0.5と急勾配であることから、導入した植生基盤の流出が懸念されるだけでなく、西向き斜面で、尾根地形であることから斜面乾燥も非常に懸念された。
様々な工法が検討されたが、これらの課題を克服できる工法として、本工法(t=3cm)が採用された。
施工地 | 茨城県 | 地質 | 砂岩・泥岩 | 勾配 | 1:0.5 |
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緑化目標 | 低木林の造成 | pH | 6.0 | 懸念事項 | 乾燥・凍結融解 |
法規制 | なし | 施工面積 | 6,350m² | 土壌硬度 | 32.2mm |
向き | 西 | 緑化手法 | 播種法 | CEC | 3.4meq/100g |
施工1年2ヶ月の段階では、外来草本種の導入を抑えたため、植被率は20%前後と低いものとなったが、施工1年6ヶ月で緑化目標である低木林は造成されつつあった。
施工3年3ヶ月後では、完全に低木林が造成されており、急傾斜で基盤の流出・乾燥が懸念される現場でも緑化目標を達成している。
積雪・寒冷地事例
経緯
対象斜面は、観光地・景勝地から明瞭に目視できる斜面であった。このことから、景観に配慮した対策として緑化工の選定が非常に重要となったが、積雪が3mを越える多雪地であり、また年間降水量も2,500mmを越える多雨地域であるため、耐浸食性の高い工法が重要と判断された。加えて観光地・景勝地であるため周辺と違和感のない景観にしたいとの要望もあり、その期間の耐侵食性が期待できる本工法(t=2cm)が選定された。
施工地 | 石川県 | 地質 | 風化火砕岩 | 勾配 | 1:1.0 |
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緑化目標 | 周辺と違和感のない景観形成 | pH | 5.4 | 懸念事項 | 積雪・激しい降雨・融雪水懸念 |
法規制 | ないが観光地から目視できる | 施工面積 | 1,800m² | 土壌硬度 | 平均25~28mm |
向き | 南 | 緑化手法 | 播種法 | CEC | 5.9meq/100g |
施工5ヶ月で一冬経過したが、積雪や融雪水の影響は全く認められなかった。施工1年8ヶ月で導入した植物種による植生が成立している。その後、4年9ヶ月経過したが、周辺からの郷土種の侵入により、周辺の景観と違和感がなくなりつつある。
積雪・寒冷地や激しい降雨が記録される地域等でも適用可能である。
花崗岩事例
経緯
対象斜面は、観光地・景勝地から明瞭に目視できる斜面であった。このことから、景観に配慮した対策として緑化工の選定が非常に重要となったが、積雪が3mを越える多雪地であり、また年間降水量も2,500mmを越える多雨地域であるため、耐浸食性の高い工法が重要と判断された。加えて観光地・景勝地であるため周辺と違和感のない景観にしたいとの要望もあり、その期間の耐侵食性が期待できる本工法(t=2cm)が選定された。
施工地 | 長野県 | 地質 | 花崗岩 | 勾配 | 1:0.5~0.8 |
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緑化目標 | 長期的なマサの流出防止 | pH | 6.7 | 懸念事項 | 凍結融解・肥料枯れ |
法規制 | なし | 施工面積 | 2,500m² | 土壌硬度 | 平均31.6mm |
向き | 西 | 緑化手法 | 播種法 | CEC | 1.2meq/100g |
施工当初から、マサが流出する現象は発生していない。植生については、徐々にではあるが木本種の生育量が増加しており、施工3年5ヶ月経過しても、衰退することなく生育している。 同時期に実施された植生基材吹付工と比較しても、その差は一目瞭然である。 緑化工が困難な地質においても、安定した緑化工が実施可能である。
森林表土利用工
経緯
対象斜面は法切工+植生工で斜面保護を図ることが方針とされたが、比婆道後帝釈国定公園内であるため、生態系保全といった観点も配慮された緑化手法が検討された。そこで現地で森林表土を採取し、それを植生基盤とともに導入する手法が採用されることとなったが、植生の復元期間が不透明であるという指摘があり、長期的に基盤を維持できる工法として、本工法(t=3cm)が採用された。
施工地 | 広島県 | 地質 | 広島花崗岩 | 勾配 | 1:1.0 |
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緑化目標 | 郷土種による植生復元 | pH | 5.6 | 懸念事項 | 凍結融解懸念 |
法規制 | 比婆道後帝釈国定公園 | 施工面積 | 5,000m² | 土壌硬度 | 平均30mm |
向き | 南 | 緑化手法 | 森林表土利用工 | CEC | 0.5meq/100g |
施工約4年が経過した段階で緑化目標である郷土種(ブナやクロモジ等)による植生復元(植被率90%)がなされている。森林表土に含まれていた埋土種子が発芽・生育した(45種類程度)ものと思われるが、生育に時間がかかる郷土種であるため、復元まで時間がかかったことが予想される。しかし、この間の斜面保護を工法で実現できれば、このような自然度の高い植生工も実施できることが確認された。
自然侵入事例
経緯
施工地は「平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震」で発生した崩壊斜面である。震央からの距離が約3.5kmしか離れていないことから非常に激しい揺れが生じたと思われ、緩んだ土塊は真湯野営場(キャンプ場)近辺にまで流出した。対象地の復元に際しては、斜面保護はもちろんであるが、栗駒国定公園内であるため、使用する植物種に制限があり、植生工においては、自然侵入促進工が採用されたため、工法で長期的に斜面保護が可能なタフグリーン工法が採用された。
施工地 | 岩手県 | 地質 | 凝灰角礫岩 凝灰質泥岩 |
勾配 | 1:1:0.8~1.0 |
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緑化目標 | 低木林の造成 | pH | 6.02~7.09 | 懸念事項 | なし |
法規制 | なし | 施工面積 | 5,000m² | 土壌硬度 | 16.3~21.8mm(時に36mm) |
向き | 北 | 緑化手法 | 自然侵入促進工 | CEC | 10.6~14.3meq/100g |
斜面状況:施工33ヶ月が経過し、3 回目の積雪寒冷期(積雪量2m 程度)を越えたが、植生基盤や地山の浸食は確認されない。
植生状況:国立公園内であるため、自然侵入促進工での施工であったが、キク科の草本種が衰退したものの、植被率は50~90%に増加している。特筆すべき点は45 種類以上の侵入種が認められるうえカツラやケヤキ、イタヤカエデ等の周辺に母樹がある植物種の実生が多数発芽・生育していることである。生育量も大きいことから今後の遷移が期待できる。